ジャックの話をさせてくれ

 

 

 

………ジャックめちゃくちゃ「色男」じゃなかった???


観劇後、自分の口からポロリと出た感想はこれだった。2019年7月に「ブロードウェイミュージカル『ニュージーズ』」が発表され、2年以上恋焦がれてきたジャックに、まずこの印象を抱くことを誰が予想できただろうか。

 

お元気ですか?

わたしは毎日気が狂いそうです。

ジャックが好きで。

 


遡ること1年前の夏、ブロードウェイ版の配信が期間限定で行われることを知り迷わず再生した。ジャックのことが知りたかったからだ。英語が得意ではないためとにかく雰囲気を掴むことに必死だったが、ジャックは一際体格も良く、そこにいるだけで場がグッと締まる人物であることを知った。骨太で体育会系のような。


ブロードウェイ版を履修した後、改めて大我さんの各誌を読むと「俺の幼く・儚く見えたりする部分もエッセンスとして取り入れて、リーダーだけどちょっと愛くるしい面も見せたほうが日本のお客さんは感情移入しやすいかなと思って」という文章をますます面白く感じた。なんて新しいアプローチなんだろう!日本特有の内面性は、繊細で儚いお芝居をする大我さんだからこそ演じられると思うし、日本で上演する意味が絶対にそこにあると思った。

 

 

2021年10月。幕が上がった。

 

大我さんのジャックは本当にニュージーズのリーダーだった。ブロードウェイ版で感じたように彼がいると場が締まる。骨格が広がった歩き方や少し乱暴だけど確実に仲間一人一人と触れ合う姿は、この組織のリーダーだと一目で分かる。それでいて自分の選択に悩んだり問題から逃げ出しそうになる人間らしい一面も垣間見える。下唇を噛みながら心底楽しそうに踊る姿や、教科書にドヤ顔の見本として載せたいくらい自慢げな顔、ころころ変わる表情はとにかくかわいくあどけない17歳。すごい。

 


そして


色男だった。

同性にも異性にも好かれる色男。他の言葉で表そうと思ってもこれ以外思いつかない。日本初演である今作品は、和訳のまま目的語が後ろにきている言い回しが多い。文章を理解するのにほんの少しだけ時間を要するがそれもまた楽しい。言い換えれば、アメリカンジョーク的な言い回しだからこそ色男感が出てるとも言える……が……

 

こんなに魅力的だなんて聞いてないよ!?


毎日人間の姿を装って仕事をしている場合ではない。わたしのことは好きの擬人化だと思ってほしい。好きが歩いてるんだよアスファルトの上を。1人でいると気が狂うからオタクと通話することしかできない。だからお願いです。ジャックの話を、わたしの好きなシーンと共に聞いてくれ。聞いてください。

 


■色男・同性の支持

物語はジャックのペントハウス、屋上のシーンから始まる。彼はとにかく同性の支持率が高い。プロローグのサンタフェで、ジャックは当たり前のようにクラッチーを「家族」と表し、クラッチーはびっくりした表情を見せる。よっぽど嬉しかったのかその後の感化院で差出人を書き変えるシーンを始め、自分たちを家族と呼び始めるクラッチーが何ともかわいい。多分ジャックにとってはなんてことない会話だけど、彼の言葉は自然に人の心を救う。そりゃみんな着いて行きたくなるよ。

ニュージー・スクエアでスト破りが起きた時、ジャックは彼らを捕らえようとはせず「仲間たち」と声をかけた。頭ごなしに怒るのではなく、どうしてストライキをするのか?を話し、貧乏は罪じゃないと寄り添う。なぜかこの台詞がすごく好きで目頭がグッと熱くなる。嘆いていないからかな、強くて美しい。

嬉しかったシーンがある。クラッチー逮捕後、ニュージーズたちに姿を見せなくなったジャックを怒る人間が誰1人としていなかったことだ。感化院にいるクラッチーも俺は大丈夫と笑ってみせる。ベッドの周りをデカネズミがうろうろしてる環境、大丈夫な訳ないのに。わたしは一睡もできんよ。そして荒みながら絵を描くジャックに手を差し伸べたのはデイヴィだった。ジャックは確かにみんなが着いて行きたくなるカリスマ性を持ち合わせたリーダーだ。でも彼1人だけでストライキは絶対に成し遂げられなかったことが各シーンから分かる。彼もまた周りに救われていた。

 

ニュージーズたちの関係性に気づくと、ピュリツァーの地下室で少年十字軍として新聞を刷る場面でなぜか泣きそうになる。ジャックが、窓から入ってきたニュージーズ一人一人とハイタッチをしたり言葉を交わしているシーン。ジャックと彼らが夜な夜な夢を語り合ったり、どんな人生を歩んできたかぽつりぽつりと話したり、悩みを打ち明けたりする夜もあったのかなと思いながら見ていた。一生一緒にいてくれや。

 


■色男・異性への接し方

や…………ここよ…………。メロる準備はできているか?紳士淑女諸君。まずニュージー・スクエアでキャサリンと出会った時点でや……やり手だ……とは思っていたけど、メッダの劇場での「俺でもダメかな?」で全てを悟った。わたしの完全降伏を。ダメなわけあるか。

そしてとうとうわたしが恋を隠しきれなくなったシーンはここ。メッダの劇場のプライベートスペースで君みたいな人にを歌いながら、キャサリンの似顔絵を描くジャック。

月明かりはいらない  甘い言葉も
一目惚れなんて馬鹿だと思ってた
素敵な女の子  出逢うとしても
でも君みたいな人に出逢うとは

横顔をサラサラと描きながら「すて〜きな」でうっとりするほどロマンチックに歌うジャックに恋が止まらない。全細胞の。もう戻れないところまできてしまった。助けてほしい。ここでショー中のメッダの劇場の2人がドアをノックしないでと歌ってるのも、プライベートスペースに邪魔が入ることなく、1秒でも長く2人で同じ時を過ごしていてほしいというわたしのもどかしさすら募らせてくれる。


ジャコビズ・デリをキャサリンが訪れてきた時、彼女はジャックことが知りたいと言う。いやもうだいぶ気になってるやん。キャサリンに、新聞に絵を描く側になることを提案されるがやりたいことじゃないとジャックは首を縦に振らない。じゃあ何がしたいのかと問われると「俺の瞳の中に書いてあるの、見えない?」と顔を覗き込む。

私「見えるよ」

なんて高度なかわし方且つ口説き方なんだよ。必然的に相手の目を見てしまうし、そこに映っているのは恋する自分だもんね……。この後のスケベ顔シーンも、しっかりキャサリンにスルーされてしまうのも若くてかわいい。

 

ジャックの特に好きなところを聞いてほしい。これは恋バナだ。女性にはありったけに優しくするという彼の中の対応の区別はあるが、性別による差別をしないところである。キャサリンからニューヨーク・サンで働いてると聞いた後、自立した女性は好きと彼女のことを肯定する。例え口説き文句だとしても、ジェンダー問題が色濃い現代で生きるわたしにとっても嬉しい台詞だった。また、彼女が少年十字軍を提案する時も、初めは塞ぎ込んでいたため聞く耳を持たなかったがわたしが女だから?と尋ねると即強く否定をする。性別も環境も軽んずることなく受け入れ尊重してくれるのなんなんだよ!?今夜も床を叩くことでしか自我を保つことができない。

ペントハウスにキャサリンやってきたシーン。ギア全開でガンガン口説いてきたのに、実際に距離が近くなると関係性をハッキリさせておきたいジャックがかわいい。この台詞がただただ好きだったから書き記しておきたい。「時を止める方法があるなら俺はそれを掴んで離さない。そうしたら君をずっと見つめていられるのに。」時を止めたいではなくその方法を掴んで離さないの、きっと今回の人生で2度と聞かない言い回しで胸がギュンギュンする。

 

 

■先天的?後天的?

好きなシーンと共に「色男」の話をしてきたが、この色男リーダー気質は生まれつきなのか・生きていくためにこの気質を得たのかが気になってくる。わたしの中の結論は半々だ。10才のレスに7才と偽った方が新聞が売れると話したり、孤児のお芝居を天性の才能だと褒める。ジャックも生きていくために自分の才能である「色男」という部分を伸ばし続けてきたのではと考える。数々の台詞や仕草にキュンキュンし、お願いガチメロディを発揮してしまう反面、彼のこれまでを想像することでまた作品の見え方も変わってくるだろう。

 

そのこれまでを経たを紐解く鍵となるのが1幕ラストのサンタフェである。ジャックは、ニュージーズから逮捕者が出て初めて事の重大さ・自分が背負っていた責任に気付いたように思える。頭では理解していたけど肌で感じてゾッとしたような。そして誰もいない遠くのサンタフェを想い歌う。「夢は叶う」でボロッッボロ泣いた。それ叶わない時の歌い方ーー!?ツイ廃がツイートするなら「夢は叶う(叶わん)」なんよ。これまで感じていたロマンチックなキラキラももちろん本当に素敵だったけど、絶望の中で夢を見つめ続けてるキラキラはどうしてこんなに悲しいくらい輝いているんだろう?

サンタフェの最後、ジャックは「確かなものがほしい」と歌い、それと同時に絵なんて描かなくていいとも言っている。初めて観劇した時、絵にそこまで関心がなさそうなのはなぜか?がずっと気になっていた。メッダの劇場の絵を褒められた時もただの公園と銅像では?みたいな反応だったし、キャサリンに美術学校の話をされた時も冗談だと思ってる。ではジャックにとって確かなものとは何か?

 

■確かなもの

まずわたしは①サンタフェに行くことと②周りの人であると考えた、が……答えはピュリツァーのオフィスのシーンにあった。ジャックが集会で反対に投票すれば、サンタフェに行けるだけの金を用意すると言うピュリツァーに対し、ジャックは揺らぎもしていなかったのである。しかしニュージーズもクラッチーもデイヴィも、幼いレスさえも感化院に入ることになると言われると顔が歪み出す。切ない。なんてこと言うんだよあんなデカネズミがいる環境。

 

思えばジャックはずっと人を大切にしてきた。上で挙げてきたシーンの他にも、デランシー兄弟のモリスにクラッチーが馬鹿にされた時も、デイヴィとレス用の寝床を探してあげようとしてた時も。人を愛する彼は人から愛されるし、キャサリンとの関係をハッキリさせておきたかったことにも納得できる。人は確かに存在しているものだけど確認できていない感情こそ不確かなものはないからね。

だからこそニュージー・スクエアで最後、瞼を閉じれば夢は見れる=夢は夢のままでいいと歌った時、許されるならば声を上げて泣きたいくらいだった。確かなものはニュージーズだし、キャサリンだったんだ。

 

 

大我さんのジャックは本当に、ニュージーズを愛し愛されたリーダーだった。

 

わたしなりに「どうして気が狂うほどジャックが好きなのか?」を精一杯詰め込んでみたつもりだ。そして台詞・歌詞・時系列整理を一緒にしてくれたフォロワー!ありがとう!ニュアンス違ったぞってのがあればいつでも教えてください!

 

 

さて、夢を見る時間は終わりだ。

新聞は放っておいても売れやしないし、ジャックにメロっていても部屋の片付けは終わらないからね。

 

 

2021.10.16